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男の物語を女が引き継ぐ。…のか?

春風亭ぴっかり☆改め蝶花楼桃花が真打昇進披露興行 口上では師匠・小朝が涙の祝福(サンスポ、2022.3.22)

前座の時から機会を見ては拝見してきた春風亭ぴっかり☆さんが蝶花楼桃花師匠になっての真打昇進、心からお喜び申し上げます。

彼女の新しいプロフィールには、こう書いてありました。

七代目・蝶花楼馬楽の没後途絶えていた、歴史ある亭号の復活となる。「桃花倶楽部」プロフィールより

下の名前は異なりますが、「蝶花楼」という亭号は、確かに歴史ある亭号だと感じます。
「東都噺家系図」(橘左近著、1999年、筑摩書房)によると、初代は江戸時代の天保年間の人、約200年ほど前の人です。そこから七代目まで、そうそうたる顔ぶれと物語が続いています。当然ですが、皆さん男性です。三代目は破天荒な生き方を貫き後世に名を遺すような方で、四代目は後の四代目柳家小さん、五代目は後の林家彦六(先代林家正蔵)というそうそうたる顔ぶれの方々が名乗ってきた名前です。2019年に亡くなった七代目は、国立演芸場の鹿芝居で好々爺の役を演じていた写真が演芸場カレンダーに掲載されていたのを覚えています。詳しく知りたい方は、とりあえずは「東都噺家系図」か、ウィキペディアあたりで確認してください。

大きな名前を継いだ女性落語家としては、西の桂あやめ師匠(前名桂花枝、1994年襲名)に次いで二人目となりますでしょうか。こちらは、自身の師匠の前名を継いだということで、一門の落語家の方々と名前を守り続けてゆくのだと思います。

浪曲では「天中軒雲月」など、男性の名前を女性が継ぐということは割とあると思います。「天中軒雲月」は、初代から現在の五代目まで、女性と男性が交互に名前を継ぎ、現在の五代目は女性です。

「蝶花楼」は現時点ではおひとりです。
小朝師匠や一門の兄弟子(そういえば、すぐ上の兄弟子は「五明楼」という由緒ある亭号を継いでいます)の後ろ盾はあるにせよ、これから、代々の「馬楽」の物語も一緒に携えて落語家としての道をゆかれるのでしょうか。それとも、そんなもの関係ない、と、あくまで亭号だけ、と割り切って独自の道を進まれてゆくのか。

どういう道になったとしても、観客である私はそれを見守ることしかできません。

春風亭ぴっかり☆改め蝶花楼桃花師匠、真打昇進おめでとうございます。
これからのご活躍、静岡の地よりささやかに応援しております。

 

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ふんまつつるべ。

Photo_20220307114101

(じろ☺︎@1y🎀さんのツイート)

 

ある時、ツイッターで「粉末鶴瓶」という言葉が出てきました。
何だ? と思って検索をかけたら、どうやら伊藤園の粉末麦茶のパッケージに、CMキャラクターをやっている笑福亭鶴瓶師匠の顔写真が貼ってあって、赤ちゃんにも優しいお茶ということで、用いる時に「粉末麦茶」の言い換えとして「粉末鶴瓶」という言葉がそれなりに使われているもようです。「粉末」で、一瞬、頭の中におぞましい映像が浮かびましたが、そういうことではありませんでした。


伊藤園 さらさら健康ミネラル むぎ茶 (チャック付き袋タイプ) 40g

検索をさらにかけると、麦茶=鶴瓶ということで、粉末のみならず「缶入り鶴瓶」とか「鶴瓶のペットボトル」とか、字面を素直に読むとおだやかでない言葉がちょこちょこと出てきます。ただ単に麦茶のパッケージに鶴瓶師匠の顔が印刷されているだけということなのですが、ここまで商品として利用されている落語家の顔があるでしょうか。落語家である以前に、顔そのものが商品として認識されているタレントとしての扱い。CM契約が無くなれば消える言い回しだとは思います。

落語家であることがまず前面に出ることが多い落語家のタレント活動の中で、己の存在を商品と同一化されて(されて)なおその価値を失わない。そこまでタレントであることが思い浮かぶ落語家としては、現役落語家では唯一無二だと思います。顔だけで落語家と認識される存在としては、柳家金語楼以来ではないでしょうか。…ふ、古い(私も実際のところは知りません)。

粉になったり缶になったり、そこまでされて大丈夫なのかな? と思いましたが、考えてみたら、過去には生理用ナプキンのCMで「月のもの(つまり、生理の経血)」になったりしているので、モノ化されて見られることに抵抗が無いのでしょうか。
落語家としての己であること以前に、他人に定義される自分になることへのハードルが、他の落語家に比べておそらく低い。

ここで、本来だったら落語家として鶴瓶師匠の高座と関係づけて語るべきなんでしょうが、残念なことに、私は鶴瓶師匠の高座を客観的に評価できるほどきちんと見聞きしていないんです。静岡(清水)で2回、あと、映画館の配信で1回くらいでしょうか。

ただ、そういう己以外の何物かになることができる才能というのは、この方の俳優としての評価の高さにつながるのかなあ、と、そんなことを思ったりもしています。

そういうわけで、今度、コンビニで麦茶を買おうと思いました。

 

 

 

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さりげなく。

2022年3月1日のサラメシ冒頭は、郵便局にカレーを届ける前局長の話題でした。

 

サラメシ シーズン11(33)「郵便局のカレー▽橋田壽賀子の鉄板焼き」

高知県土佐市。退職した前郵便局長が作るカレーが、後輩の郵便局員たちに好評だ。カレーはもちろん、自ら手作り。ほぼ月イチペースで、みんなの楽しみな昼食になっている。カレーを通じた、心温まる交流とサラメシを拝見!

小さな郵便局、退職した前局長が、後輩のために月一回届けるカレー。微笑ましい話題ですが、ところどころに現実がふわっと顔を出します。

  • 前局長が退職したのは13年前の53歳の時。営業などのノルマがきつくなり、今まで顔なじみで済んでいた間柄も「免許証の確認」などで面倒になり、退職を決意したが後悔はない。
  • 前局長に抜擢された女性の現局長、郵便業務だけではなく保険や貯金の業務も少人数でこなす。カウンターで「民営化されたんだから、つぶれないということはない」。

見ながら思ったこと。

郵便局の民営化は2007年。地道に地元で郵便局員として仕事をしてきた前局長が、民営化で業務の質が変わり、退職を決意するしかなかったんだろうな。そして新局長は、民営化された郵便業務を新たな心構えで日々の業務をこなしてゆくんだろうな。

画面はルーを4種類入れて作られるカレーを、そして畳敷きの郵便局のバックヤードで食べられるカレーを淡々と紹介しています。
けれども、その中に、さりげなく入り込む郵政民営化の現実。いいとも悪いとも言わない。ただそこにある状況を紹介するだけ。

あ~、こういう表現私好きだな、と思いました。問題点を真正面からとらえるのも大事だけど、そういう取材や表現では萎縮してしまう対象などを、物や人のクッションをかませて紹介する方法。

…そういうふうに、社会問題を取り上げたいですね、と、お役所のPR誌の編集のお手伝いをした時に提案したら、「は?」と言われてしまいました。そんなことをおいしそうなカレーを見ながら思い出しました。

画像は特に意味はありません。観光案内から引用しました。

 

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